
オス猫も子育てに参加する?
コガネとシャームの子育て記。
【猫の楽園、猫の島】
みなさん「猫の島」という場所をご存知ですか?
福岡県の沖合にある小さな島で、相島(あいのしま)というところがあります。
周囲8キロの小さな島に150匹の猫が自由気ままに暮らしています。
そうです飼い猫ではなく自由猫なのです。
地域猫ともいいますか。
つまり人間の手によって飼われているのではなく、人間のそばに寄り添いながら自由に気ままに猫が暮らしているのです。
ちょっと大げさに言えば、「猫の楽園」とでも言いましょうか。
とにかく、たくさんの猫が人間と仲良くしながら、それでいて人間に拘束されない気ままな暮らしをしている島なのです。
この島はいまでは猫がたくさんいる島ということで観光名所となっていて、島の猫目当てに訪れる人がたくさんいます。
猫好きには大変人気のある観光スポットなのです。
その猫島で起きた意外な出来事をお知らせしたいと思います。
この猫島のメス猫は自分の子育てをするときに自分の子育て場所を決めています。
猫は基本的にテリトリー意識が高いですから、自分の子育て場所に他のメス猫が来ることを嫌います。
それとオスが入り込むことも嫌がります。
なぜオス猫を嫌がるのか?
それは、まだ自分の遺伝子を残していないオス猫がメス猫と交尾をするために子猫を殺してしまうことが頻繁に起きるからです。
子育て中のメス猫は発情しませんから、子猫を殺すことでメスに発情を促し、自分の遺伝子を残そうとするのです。
ですから子育て中のメス猫は、他のメス猫からテリトリーを守りながら、侵入してくるオス猫から子猫を守らなくてはならないのです。
【コガネの子育て】
この猫島にいるコガネというメス猫の子育てに焦点を当ててみましょう。
コガネは昨年島の女王猫であった母猫と姉猫を失って、一匹で子育てをしています。
猫の世界は母親の子育て場所を娘が受け継ぐのです。
コガネの子育ての場所は、母猫から引き継いだ子育てにはもってこいの物置(民家)の中です。
コガネは春に「ライ」というオス猫と「フウ」というメス猫の赤ちゃんを産みました。
コガネは子猫を寝かしつけると港へ向かいます。
それは漁師が港で水揚げをしているからです。
漁師が売り物にならない魚を集まった猫にあげるのです。
それを目当てにたくさん猫が集まります。
コガネは子猫のために漁師さんが投げてくれた魚をゲットします。
コガネは食事を済ませるとすぐに子猫のいる物置に戻ります。
その間約10分。
人間もそうですが、子育てって大変ですよね。
コガネは他の猫に居場所を知られないように慎重に物置に入って行きます。
そのときコガネの後をオス猫が追っていきます。
そのオス猫は繁殖に失敗した「あぶれオス」です。
子育て中のメス猫を狙って、子猫を殺して、メスを再び発情させて、自分の遺伝子を残そうとしているオス猫です。
こういうとなんだかワルの猫ですね。
でも、これも自然の摂理なのでオス猫とすれば必死なのです。
ただ、人間の目からすれば子育て中のメス猫を狙い、子猫を殺してしまうなどというのは許しがたいことです。
猫の子育てにはこうした実に厳しい環境にあるのです。
このコガネが子育てしている物置の入り口はジャンプして天井とのすき間から入らなければならないので、コガネを追ってきたオス猫はいつの間にか消えてしまうコガネに諦めてどこかへ行ってしまうことがほとんどでした。
それにしても「あぶれオスによる子殺し」は怖いですね。
母猫とすれば、せっかく産んだ子猫が殺されてしまうのは、なんとも悲しい出来事です。
しかし、野生に近い猫島では、オスが繁殖行動を取れるのは強いオスだけなのです。
ですから、競争に負けてしまった弱いオス猫が「子殺し」をして繁殖行動を取ろうとしているのです。
これも自然界では仕方がないのかもしれません。
コガネはオス猫から人気のメス猫なのです。
コガネを狙って多くのオス猫がやってきます。
危険なのはオス猫だけではありません。
安全でオス猫が入ってこない場所というのはなかなかない貴重な場所なのです。
ですから他のメス猫がコガネの子育てしている物置を狙ってくるのです。
コガネは「子殺しのあぶレオス」と「子育て場所を横取りしようとするメス猫」から子育ての場所と子猫を守らなければならないのです。
実に大変だ~!
【猫の子育て、共同保育】
猫というのは、母猫から子育ての場所を引き継ぐだけではなく、姉などがいる場合に姉猫や母猫と一緒に子育てをするのです。
授乳や見張を交代で行うことで外敵から子猫を守り、確実に子猫を育てます。
これを「共同保育」と言います。
これはあくまで血縁のあるメス猫でのことです。
子育て中のコガネの場所を狙って別の子育て中のメス猫がやってきます。
そのたびにコガネはネス猫を追い払わねばならいのです。
しかも、その争いは食事場所である港も危険が潜んでします。
母と姉を失ったコガネは一匹で食事場所と子育て場所を確保しなくてはならいのです。
きびし~い!
そんなコガネの子育て場所にオス猫がやってきました。
ところがコガネは追い払うどころか親愛の情を込めて鳴きます。
シャームと呼ばれる5~6歳のオス猫は、実は子猫の父親なのです。
ですからコガネは警戒しなかったのです。
そんなシャームが物置の外に出ると、オスの黒猫が睨みつけていました。
シャームは「ウー」という低い警戒音を鳴らして黒猫に近づきます。
シャームは大きな鳴き声を上げて黒猫に挑みます。
オス猫の争いでは、大きな声を上げて鳴いたオスが勝つルールがあるのです。
これを「鳴き合い」と言います。
シャームは顔を黒猫の額にくっつけながら低い唸り声をあげます。
黒猫はシャームの気迫に怯えて退散します。
その後も次々とコガネとコガネの子猫を狙ってオス猫がやってきますが、そのたびにシャームが「鳴き合い」を挑み追っ払います。
ときには取っ組み合いの闘いをすることもあります。
ですが、シャームには守るべき存在があるのですから、負けられません。
シャームは子猫のボディーガードのように守っているのです。
【オス猫は子育てしないという定説が崩れた】
いままで「多くの猫科の動物のオスは子育てに参加しない」というのが定説となっていました。
このシャームの行動はその定説を覆すものだったのです。
いままでの猫界の常識では、オスは複数のメスと関係を持とうとし、特定のメスを助けることはないとされてきました。
ですからメス猫が子育てをしていても、寝っ転がっているだけで呑気なものです。
ところが、シャームはコガネのそばを離れません。
シャームが物置にやってくると子猫のフウとライも近づいて甘えます。
まるで父親であることを知っているとしか思えません。
子猫も自分たちを守ってくれていることを理解しているのかもしれません。
他にもコガネの兄弟猫もシャームと同じように子育てに参加したことが判明しています。
このことにより、オスの見守り行動は普遍的な行動である可能性が出てきました。
そうです、猫もオスとメスが共同して子育てをしているのです。
(もちろんそうでないケースのほうが多いかもしれません)
ですが、調査の結果、シャームという個体だけの行動ではなく猫界にある普遍的な行動ではないかと現在では考えられているのです。
凄いですね~!
他のオス猫から体を張って子猫とコガネを守るシャームの姿には感動を覚えます。
【コガネの引っ越し】
子猫が生後2ヶ月になるとコガネは引っ越しをします。
それは港でもらう魚に近い場所である必要があるからです。
離乳し始めた子猫の食欲を満たすために魚がもらえる港に近い場所に引っ越したのです。
でも港近くに引っ越すということは他の猫と遭遇する確率が高くなることを意味します。
あるときも大きなオス猫がライに近づきました。
それを察したコガネは臨戦態勢となります。
そこへやってきたのは父親のシャームです。
そうです、物置をでたコガネ親子を引き続き守っていたのです。
(かっこい~!)
しかもシャームは子猫たちに自分の臭いをつけます。
そうすることで他のオス猫から守ろうとしたのです。
フウとライが生後4ヶ月になるとコガネの子育てに変化が見られるようになりました。
フウ(メス)にはお乳を飲ませないようにして、ライ(オス)には喧嘩のような取っ組み合いを仕掛けます。
これには理由があるのです。
これはオスとメスの生き方の違いからくるものなのです。
オス猫であるライは今後、他のオス猫との闘いに明け暮れます。
ですから闘い方を教えていたのかもしれません。
一方、メスのフウとはずっと一緒に暮らします。
そんなとき黒サビのメス猫(コガネのライバル)がフウを狙って来ました。
それを見ていたコガネは「許すまじ」とライバルの黒サビを追っ払います。
それを見ていたフウはコガネに甘えます。
「お母さんありがとう」とでも言いたげです。
なんとも微笑ましいじゃありませんか。
猫って愛情深い生き物なんです。
だから家猫も飼い主のことを愛せるんです。
飼い主を家族だと思って愛しているんです。
【コガネとシャームの関係】
一年が経ちまた新しい猫の恋の季節がやってきました。
コガネを狙って多くのオス猫たちがやってきます。
もちろんシャームもやってきました。
しかし、ブリという大きな黒猫に闘いを挑まれます。
鳴き合いでシャームは負けてしまったのです。
猫の世界は強い猫が繁殖行動取れるのです。
闘いに負けたオス猫は繁殖行動を取れません。
しかし、です。
コガネが黒猫の求愛を拒み、自らシャームに求愛をしたのです。
複数のオス猫から求愛されたコガネでしたが、最終的に選んだのが、なんとシャームだったのです。
素晴らしい!
そしてまたコガネは子猫を産み、シャームはボディーガードを務めるのです。
しかもシャームはコガネに受け入れられた後に、他のメス猫に求愛しませんでした。
コガネとシャームの猫愛に感動しました。
【まとめ】
我々人間もシャームに見習って子育てをしなければならないな~と感じます。
猫という生き物は、人間の身近な存在であり、人間のような感情と行動を持っているのかもしれません。
猫っていいですよね!
お読みいただきありがとうございました。
